
東京では、約19,000台の個人タクシーが営業している。そのなかでiPodを真空管アンプにつなぎ、車内で本格的なジャズを聴かせるタクシーが1台だけある。それが、安西さんのジャズタクシーだ。
個人タクシーを開業した14年前から、安西さんの車には真空管アンプが搭載されていた。理由は「空き時間にジャズを聴きたかったから」。あくまでも自分が聴くための設備だった。
「あるとき、お客さんとジャズの話になってね。『ジャズをかけましょうか?』と言ってかけたら、お客さんが大喜びだったんですよ。それからは、自然な感じで、お客さんにジャズを聴いてもらうようになりました。はじめは CD で、かけてたんですけど、1年ほど前に別の常連客の勧めで iPod を導入したんです。コンパクトだけど、たくさん曲も入りますから」
ちなみに安西さんは、そろばん勘定が苦手。戦略的に営業するというよりも、お客さんとのふれあいの中で、いろんなアイデアが浮かんでくる。車内でジャズを聴きながら、安西さんが独自に選んだコースを約1時間半ほどかけてまわるジャズ・クルージング(以下、クルージング)も、お客さんのリクエストがヒントだった。
「常連客に『ジャズ好きの友人をふたり連れてくるから、都内を2時間ほど回ってくれ』と依頼されたのが最初です。その常連客から何枚かCDを渡され、それを車内でかけました。その後、その常連客の友人がまた別の友人を紹介してくれて、ふたたびジャズを聴きながら都内を回った。そうやって、ネットワークが広がるうちに、『このサービスはいいなあ』と思ったんです。それで、Web の勉強をしてホームページを開設し、7年前から"クルージング"という商品として売り出しました」
そもそも安西さんとジャズとの出会いは、中学生時代にさかのぼる。たまたま近所の人に誘われていったのが、サッチモ(ジャズの巨人、ルイ・アームストロングの愛称)のコンサートだった。春日八郎の「お富さん」や美空ひばりの「りんご追分」がちまたで流れていた時期に、サッチモの歌と演奏を直接聴いた安西さんは、カルチャーショックを受ける。
「ジャズという音楽の存在に気づいてからは、ひたすら FEN(極東放送。米軍によるラジオ放送で、現在は AFN に改称)を聴いてました。レコードなんて、当時はまだ高価で買えませんでしたから。それからずっとジャズを聴いている。ジャズは、僕の心や身体のリズムに合うんですよ」
安西さんのタクシーは、2種類のお客さんが利用する。夕方から22時までの時間は、クルージングのお客さん。そして、23時以降は、移動や帰宅のために利用するお客さんだ。
クルージングは、1日2組の限定で、スタート時間は19時と21時10分。値段は12,000円。オリジナリティと満足度を考えれば、この値段はけっして高くない。
「ジャズを真空管アンプでかけるだけでも、ほとんどのお客さんは満足してくれます。それに加えてクルージングのお客さんには、曲をかけながら、その曲にまつわる物語をお客さんに話すんですよ」
安西さんは、お客さんにジャズを聴いてもらうだけでなく、「感動とサプライズ」を提供することを心がけている。小学生のときから洋画好きだった安西さんは、メールでクルージングの予約を受けたときに、そのつどお客さんの要望に応じてサプライズの趣向を考える。
「アメリカ映画って、感動やサプライズのシーンが多いでしょう。たとえば『ローマの休日』。グレゴリー・ペックがオードリー・ヘップバーンを『真実の口』に連れていって、ヘップバーンを驚かせたり。そういった名シーンの数々が、頭の中に入ってるんですよ」
クルージングには、基本のシナリオがあるものの、細かいところはお客さんによってアレンジを変えている。シナリオのベースには、こうした洋画の豊富な知識や安西さん自身の経験が活かされている。安西さんは、運転手であり演出家なのだ。
ところで、クルージングのコースは、どうやって決めているのだろうか。
「若いころ、ぜんぜんモテなかったんですよ。そうなると『もし彼女ができたら、こんなデートコースで走りたいなあ』なんて想像するでしょう。そうやって考え出したデートコースが、クルージングのコース設定の参考になっていたりしますよ。モテる男性だったら、演出をしなくても女性が寄ってくるんでしょうけど、僕の場合は寄ってこなかったから、デートも工夫をしなきゃならなかった(笑)。その経験が活きているんですね」
これまで、クルージングを利用して、彼氏や彼女にプロポーズをしたカップルが7組。いずれも成功に導いている安西さんは、「キューピットなんですよ、僕は。少々歳はとっていますが」と微笑みながら語る。
安西さんがもっとも嬉しいのは、クルージングが終わったお客さんから「楽しかった」というメールをもらったときだという。「今度は両親を乗せてください」と書かれていることもしばしばある。こうしてお客さんとの輪が、どんどん広がっていく。 このように、タクシーやジャズというツールを使い、「いかにお客さんを楽しませるか」を考え続けている安西さんにとって、仕事とは何なのだろう?
「僕にとっての仕事とは、楽しみながらやるものなんです。お客さんにジャズを聴いてもらうのも、凝った演出で感動とサプライズを提供するのも、僕自身が楽しんでやっていることですから。仕事をする本人とお客さんが、同時に楽しめる仕事なんて、めったにありません。だから、そんな仕事をさせてもらっている自分は、幸運だと思いますよ」
今まで「真空管アンプでジャズを聴かせるタクシー」として、以前はオーディオ誌や音楽誌などから、ハードに関する取材を受けることが多かった。ところが、Web 上でクルージングを売り出してからの安西さんには、セミナーの講師依頼が舞い込んだり、クルージングに注目した取材をマスコミから受けたりと、新しいことにチャレンジする機会が増えた。
「例えば、ホームページを開設したり、ブログを始めたりする。若い人には簡単なことなのでしょうけれど、この歳になるとけっこう大変なんですよね。それでも、あえてチャレンジするのは、僕が『どうすれば自分が楽しく生きられるのか』ということに興味があるからです。あとから振り返ってみると、そうやってチャレンジしたことが、集客につながっているし、仕事の楽しさを増すことにもつながっているんですよ」
今年で65歳になる安西さんは、2カ月前から新たにチャレンジしていることがある。タップダンスを習っているのだ。
「習い始めた理由は、ふたつあります。まず、ジャズのリズムを忘れたくないから。タップはジャズを流しながら踊るので、身体がジャズのリズムを覚えてくれるんです。あと、歳を取ると姿勢が悪くなるでしょう。前かがみになったり。そういうのが嫌なんですよ。タップをやると、背筋がピッとなりますから」
つねに、新たなことに挑戦しながら、「楽しさ」の本質を追求しつづける安西さん。ジャズタクシーが提供する「感動とサプライズ」の裏には、「スイングがなければ意味がない」(ジャズの名曲)ならぬ「楽しくなければ、仕事じゃない!」という言葉を実践する安西さんの生き様が隠されていた。 次回は、インターネットとの出会い、そしてブログとの関わりについて、お話をうかがってみる。
<次回予告>
人気作家の小説のモデルにもなった安西さん。そのいきさつやブログとの出会い、タクシードライバーらしい独特の執筆方法まで、いろいろとお聞きしました。安西さんによる「この夏聴きたいオススメ」もご紹介! お楽しみに!
●文 :一文字剛
●撮影:上村写真事務所(上村明彦)
<取材協力>
GASTRO-PUB COOPERS 丸の内店
東京都千代田区丸の内2-5-2 三菱ビルB1 03-5288-7896
本場ロンドンのパブの雰囲気で、昼はランチや居心地のよいカフェとして、夜はビストロパブとして本格的なディナーとワインが楽しめます。
おすすめは、1番人気の「フィッシュ&チップス」(¥780)や自家製ソースの「ローストビーフ」(¥1,150)。
<ブログ紹介>
iPod+真空管アンプ=ジャズタクシー
「感動とサプライズ」をテーマに、東京の夜景をクルージングするジャズタクシー。そのドライバー安西さんが出会ったお客さんとのふれあいや、有名ジャズメンとの思い出などを綴ります。
セレブの出すお題にトラックバックまたは、コメントで答えてプレゼントをもらっちゃおう! セレブが選んだ優秀作品には、プレゼントがもらえます。どしどしご応募ください!
「ブログ『iPod+真空管アンプ=ジャズタクシー』の中で、行っている"ジャズタクシーへの100の質問"の企画の中で、聞いてみたい質問は何ですか? ブログの感想でもいいですよ」(安西敏幸)

今回は、安西さんが使用しているジャズタクシーの名刺をプレゼント。なんと片面には、以前乗車したヘレン・メリルさん(ジャズ・シンガー)や秋吉敏子さん(ジャズ・ピアニスト)、石田衣良さん(作家)のサインが!(※複製になります) 3枚をまとめて、1名様に!
タイトルに「ココセレブ special プレゼント」と明記の上、お題に対する記事をトラックバックまたはコメントをお寄せください。なお、応募以外の感想などのトラックバック・コメントも随時受付中です!
当選者の方には、ココセレブ事務局よりご連絡させていただきますので、必ず「メールアドレス」がわかるようにブログ内、コメント欄に明記してくださいね。
(URLを入力せず名前とメールアドレスのみ入力された場合、名前は表示されますがメールアドレスはリンクされず公開されなくなりました)
終了しました
安西敏幸さんからコメントをいただきました!
夕湖 さん
ご当選、おめでとうございます! のちほど、ココセレブ事務局よりご連絡を差し上げます。
たくさんのご応募ありがとうございました。
之を知る者は 之を好む者に如かず
之を好む者は 之を楽しむ者に如かず 『論語』
(意味:いくら仕事に精通していても 仕事を好んでやってる人には敵わない
いくら仕事を好んでやっていても 仕事を楽しんでる人には敵わない)
何事をするのでもその中で楽しさを見つけることです。
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コメント
「ココセレブ special プレゼント希望」
“『どうすれば自分が楽しく生きられるのか』ということに興味があるからです。”という言葉に、共感すると同時に、今自分がいる迷路の出口が見えたような気がしました!
ジャズタクシーにもとっても興味があります!東京へ行ったら是非一度乗ってみたいと思います♪♪
素敵な記事を読ませて頂き、有難うございます☆☆
投稿: 夕湖 | 2007/08/03 18:07:18
素敵なお話ありがとうございます。
人生を楽しむために仕事をする、人を喜ばす仕事をする、そんな仕事を一生出来たらいい、と思ってやってきました。
いい人生を歩んでいらしゃいます。
私の仕事ももっと楽しんで、喜んでいただくための工夫をこれからやって生きたいです。お元気でご活躍ください。
投稿: 滝本 智重子 | 2007/08/03 23:20:39