

インターネットというのは、誰もが気軽に文章を書き、アップできる場所。手軽にアクセスできるけれど、そこでステイタスを得たり地位を築くのには、とても時間がかかる。つまり、「インターネットを即効性のあるメディアだと勘違いしている人が多いんですが、実は気長に取り組んでいくべきメディアだと僕は思うんです」と茂木さんは言う。
「僕の『クオリア日記』は、小難しいことが書いてあったりするので、有名タレントの日記みたいに天文学的なアクセス数があったりはしません。それでも長く続けていると、少しずつコアな読者が集まってきてくれるんですね。読者を獲得するプロセスというものは、すごく長い時間がかかるわけです。地道に毎日100パーセントの力をブログを書くことに注ぐ。そういう気持ちで取り組んでいます。 アメリカの若者の間では、そこらの学者や作家よりも、アルファブロガー(影響力のあるブロガー)のほうが偉いと普通に思われていたりします。僕の野心は、英語のブログで地道に読者を増やし、英語圏におけるアルファブロガーになることですが、日本語のブログもいまより影響力のあるものにしていけたらと思っています」
インターネットの一般的なイメージは、「『2ちゃんねる』や『mixi』に見られるようなユルいもの」だと茂木さんは考える。しかし、ユルく思われているインターネットには、学ぶための素材がいくらでも転がっているのも事実。茂木さんは、そのことをもっと多くの人に気づいてもらいたいと考えている。
「福澤諭吉の『学問のすすめ』を思い出してみてください。福澤は同書で、『門閥制度は親のかたき』と書いています。江戸時代の封建制度に縛られるなかで、今後は学問を修めれば身を立てられることを同書で示唆しました。僕は今、この福澤の『門閥制度は親のかたき』という言葉を、『学歴社会は親のかたき』と言い換えて使いたいですね。
少し前の日本だと、大学に行かなければ専門的な知識は得られませんでした。ところが、今は大学に行かなくても専門的な情報は得られます。脳科学や認知科学そして物理学など、ありとあらゆる専門知の情報がインターネットを介して得られるようになったんです。
これはある意味、『知のビッグバン』だと言えると思うんです。つまり、インターネットの進化によって、自分の学びたいことだけを好きなときに好きなだけ学べるようになり、私たちは大きな喜びを得たというわけ。たとえば、食べ物なんかはたくさん食べるとすぐにお腹がいっぱいになってしまいますが、学ぶという行為には上限がありませんからね。いくら勉強しても、し過ぎるということにはならない。もう学歴で人と自分を比較することはナンセンスになってくると思うんです。ただ、インターネットでの専門的な情報の公開については、既得権益を守ろうとする人がいるとは思います。でも、それはそれほど重要なことではありません。なぜなら、『知』は万人に知られることを望まれるものですからね」
学歴にコンプレックスを感じている人には、茂木さんの考えは画期的なものではないだろうか。これからの時代は、大学に進学せずとも専門的な知識がいくらでも好きなだけ身につけられる。『学歴社会は親のかたき』、この言葉は私たちの凝り固まった考えをほぐしてくれるものだった。

今は、日本語で本を書くことが多い茂木さんだが、中長期的な展望としては、本はすべて英語で書こうと考えている。その英語で書いた本を誰かに翻訳してもらい、日本で刊行してみたいという野望があるというのだ。
「インターネットは世界に開かれています。にもかかわらず、日本人は日本語圏内をうろうろしている人が多い。学者にしてもドメ男くん、すなわちドメスティック(国内的)な領域でものを調べ、ものを考え、発表している人ばかりです。だから、世界から見ると日本というのは巨大なブラックボックスになってしまっているんですよね。日本から世界に出ていくのは、たとえばオタク文化といわれるようなアニメーションなどの限られたものだけ。だから僕は『The Qualia Journal』で実験をしているんです。つまり、内田百間(小説家)や小林秀雄(評論家)が日々、身の回りで起きたことを記述したようなことを英語でやってみようと思って」
日本人は海外に出ると借りてきた猫のようにおとなしくなる。とくにヨーロッパなどへ行くと、ウィトゲンシュタイン(オーストリアの哲学者)やらフッサール(オーストリアの数学者・哲学者)やらの思想を論文や講演などで引用することにより、現地の学者と仲間であるようなフリをして帰ってくる……。茂木さんは、そんな日本の学者を数え切れないくらい見てきた。
「現地の学者が欲しいのは、引用でつながる仲間意識ではなくて、日本発の発想や思想なんです。日本からしか出ないような、他とは異なる強烈な贈り物を欲しがっているというわけ。ならば僕は、贈り物を海外に届ける"輸出業者"に徹しようではないか、と思うようになりました。 2カ月前から『The Qualia Journal』も毎日更新していますが、英語で日記を書くなかで、わかったことがあります。それは、日本の可能性の中心というか、日本を英語で紹介したときに商品として成立するのは、『もののあはれ』なんだということです。『源氏物語』や本居宣長(江戸中期の国学者)、小林秀雄、小津安二郎(映画監督)などの作品に共通するもの。それが『もののあはれ』です。日本独特の生命哲学といってもいいでしょう」
「もののあはれ」とは、本居宣長が提唱した「外界としての「もの」と感情としての「あはれ」とが一致する所に生じた、調和的な情趣の世界」(大辞林より)。そんな日本独特の美意識を、世界に向けて知らせようと茂木さんは試みているのだ。

茂木さんは、インターネットでさまざまな試みをしてきた。そのなかで、たとえばメールマガジンがいかに力を失っていったかという状況を目の当たりにしている。また、メーリングリストも同様で、いずれも継続するのは難しい状態だという。他方、それらと比べた場合、ブログは力を失わずに残っている。そんなブログの優れた点を改めて聞いてみた。
「最近、僕は『すべてを対称にしたい』という哲学を持つようになりました。たとえば、読者と書き手、男と女、若者とお年寄り、教師と生徒、といったように一対一で向き合うということです。そして、対称にするということは、対等にする、すなわち、一対一で人が向き合った場合に、どちらの人が偉いとか権威があるといったことを、まったく気にしないということです。 だから僕はいつでもデジカメを携帯して、自分の対称となる相手を撮影しています。世の中には非対称な関係(一対一で向き合った場合のどちらかの人が、自分の方が偉いと思っていたり、賢いと思っていたりする関係)にあぐらをかく人がたくさんいますが、僕はそういう人が醜く見えるし、そうなりたくありません。 ここでブログの話に戻せば、書き手と読み手が非対称な部分はもちろんあるけれど、限りなく対称に近いんですね。書き手だけでなく、読み手もコメントなどで何らかの反応を示すことができますし。ブログの優れた点はそういった双方向性だといわれますが、僕は対称性こそがブログのよい部分だと思っているんですよ。書き手と読み手が対照的な存在になっているところがすごく好きですね」
茂木さんは英語ブログの公開には『Google』の「Blogger」を使っている。その「Blogger」では、記事をアップする時に「パブリッシュ(publish)」と書いてあるボタンをクリックする。ココログでいうと「今すぐ公開」となっているボタンだ。
「自分の書いたものがインターネットを経由して、公共空間に公開される。これはまさに、公共に向けて『パブリッシュ(=発行する、出版する)』することではありませんか。そういった意識を持って、ブログを書いていく姿勢が僕は大切だと思っています。
というのも、日本人には公共空間という概念があまりないので、公共空間とコミットするときの緊張感が欠けていると思うんですよね。繰り返しますが、インターネット空間で自分の文章を公開することは、本や雑誌を発行するのと同じような意味を持つということを、忘れないでほしい」

一般のブロガーが、どれほど茂木さんのような認識をもってブログを公開しているかはわからないが、自分の考えを公の場で発表することの重大さ、重要さ、そしてそれが社会に与える影響の大きさを改めて実感する意見だ。
ブログに対して自分なりのしっかりとした考えをもっている茂木さんに、最後に一般のブロガーに対するアドバイスをいただいた。
「自分の過去って、振り返るたびに変わっていくものです。だから、その日に起きたことをその日のうちに書いておくことも重要ですが、時には過去を振り返ってブログを書くことにも意味があると思います。それは、過去を見つめ直すことにより、当時とは違った過去に出会えるかもしれない。また、過去の出来事を現在に活かすことができるかもしれないからなんです」
ところで、超多忙な茂木さんにはやる気がなくなったり、気分がダウンしたりすることはないのか尋ねると、「それはありませんね。学び中毒なんだと思います(笑)」と一言。人間とは学習に依存しており、学習せずにはいられない生き物というのが茂木さんの仮説だ。
日々の学習を続けながら、曇りのない眼で自分の脳に起こっていることを見つめる。茂木さんにとってのブログとは、それを実践し、記録する場所なのであった。
<次回予告>
AmazonでアイドルDVDランキング1位を獲得するなど、今、飛ぶ鳥を落とす勢いのグラビアアイドル・森下悠里さんが次回ココセレブインタビューに登場!
多忙のなか、怒涛のイキオイで更新されるブログはとってもファン想い。ブログのシステムにも精通した森下さんのブログ哲学を伺ってきました。
ステキな撮りおろしフォト、ファン垂涎のプレゼントも♪ お楽しみに!!
●文:谷川茂
●撮影:上村写真事務所(上村明彦)
<ブログ紹介>
『クオリア日記』
研究、大学教授、テレビ出演、執筆、対談、講演など、多くの仕事をこなす超多忙な茂木さんが毎日更新し続けているブログが『クオリア日記』。脳科学者の日常が垣間見える貴重な記事が満載だ。また、クオリア日記の英語版である『The Qualia Journal』やNHK 『プロフェッショナル 仕事の流儀』のブログ『プロフェッショナル日記』も公開中。
セレブの出すお題にトラックバックまたは、コメントで答えてプレゼントをもらっちゃおう! セレブが選んだ優秀作品には、プレゼントがもらえます。どしどしご応募ください!
「あなたの『レディメイド』作品を募集します」(茂木健一郎) ※お題の詳しい内容は茂木さんのブログ『クオリア日記』で発表される予定です!(お題の記事が発表されるまでしばらくお待ちください)
『やわらか脳』(徳間書店刊) 『「脳」整理法』(筑摩書房刊) 「Brutus ~脳科学者ならこう言うね~」(マガジンハウス刊)を3名様にプレゼントいたします。 茂木さん直筆のかわいいイラストとサイン入り!
今回の応募のみ 、茂木さんのブログ『クオリア日記』の「レディ・メイド作品 募集」という記事(お題の詳しい内容や応募方法が書かれています)にトラックバックしてください。これで応募完了となります。
(茂木さんのブログの他の記事にトラックバックしても無効となります)
当選者は茂木さんが選ばれます。当選者の方には、ココセレブ事務局よりご連絡させていただきますので、必ず「メールアドレス」がわかるようにブログ内、コメント欄に明記してください。
※当選のお知らせメールをお送りしてから14日以上経過しても送付先に関するご返信をいただけない場合は、当選が無効となる場合があります。ご注意ください。
なお、応募以外の感想などのトラックバック・コメントはこのページでも随時受付中です!
終了しました
everyday people @ JUGEMさん
THさん
ゆきすけさん
ご当選、おめでとうございます!
のちほど、ココセレブ事務局よりご連絡差し上げます。
ご応募いただいたみなさま
この度、当選者発表に大変時間がかかってしまいましたことをお詫び申し上げます。
長らくお待たせしてしまい、まことに申し訳ございませんでした。
本来ならば、茂木さんに当選者を決めていただくところですが、
大変ご多忙のため、今回は事務局で抽選という形をとらせていただきました。
これ以上、当選者発表を遅らせることができないと判断したため、
抽選で当選者を決定させていただきましたことをご理解いただけますと幸いです。
ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
2008年4月14日
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日本人にとって、漢字文化の受容のほうが、西洋文化の受容以上に大きなハードルだったのでは? -茂木健一郎さんの記事によせて(2)- from カウンセラーこういちろうの雑記帳
「ココログセレブ」の茂木健一郎さん特集、今回は後編についてです。 現地の学者が[続きを読む] 2007/03/20 21:50:29
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コメント
茂木さんのファンです!
投稿: kurata | 2007/03/27 23:21:03
当選者発表はまだですかー?
投稿: chat | 2007/04/29 23:07:34
一ヶ月を超えると、記憶が消えそうになりますね、
「レディ・メイド」は幻だったのかも。
そんな頼りなさを感じています。
投稿: 葉っぱ64 | 2007/05/01 11:47:22
茂木先生のご活躍を考えると、なかなか大変なんでしょう
ね…。
当選発表…のんびりとお待ちしています。
茂木先生、くれぐれも健康には留意してくださいね。
投稿: コロン | 2007/05/03 6:04:29
「もののあはれ」を考えた本居宣長には本居豊頴という曾孫がいました。明治時代に東大の先生や皇太子の教育係なんかをやってた人で、作曲家の本居長世のおじいさんでもありました。そして、東京の神田明神の宮司~昔は祠官と言いました~もやっていました。神田明神と言えば、この前の神田祭でインターネットで「インターネットTV神田祭ch.」を試みてます。ストリーミング配信、ブログ、携帯電話での動画配信などなど、ご近所に秋葉原もあり、「萌えキャラ(?)」なんかも登場したり・・・、面白かったです。
投稿: KMM | 2007/05/26 20:24:05
>※諸事情により当選者発表が遅れております。大変申し訳ございませんが、もうしばらくお待ちください。
もうしばらくは、数ヶ月のことなのですか?
諸事情を説明した方がいいのではないですか、
取りやめになったのなら、
もしくは、該当者がいないと言うなら、
その旨を発表して方がいいのではないか、
最低限の常識的な振る舞いはすべきでしょう。
他の応募の方々は、どう思いですか?
投稿: 葉っぱ64 | 2007/08/24 22:26:14
>葉っぱ64様
貴方と同意見です。
出題者が自身のブログでやったことで、
当人がなんらかの事情で放置してある、
というなら、いくら忙しいとはいえ、
「無責任な人だ」で終わってしまうのは、
致し方のない一面もあるかもしれませんが、
「ココログ・セレブ(nifty)」といった媒体を通して
出題している以上、「諸事情を記さない」行為は、
ココログにも批判の目が向いてしまいますから。
内実はともかく、ココログ(この場ですね)を通し、
体裁でもよいのでコメントする責任はあるでしょうね。
投稿: 久路毬 ゆう | 2007/08/29 8:32:25
そう、儀礼でもいいのです。
放置プレイはいけませんね、
それによるマイナスは関係者の方々が受けるのであって、
応募した一人であっても、あんまり腹立たしさはないのですが、
老婆心ながら、色々と気になり心配しているのです。
まあ、年を越さないと思いますが、
ひょっとして、ひょっとということのあり得ますね(笑)。
でも、一方で、ビジネスの常識ではありえないことが進行していることが、面白くもあります。
投稿: 葉っぱ64 | 2007/09/01 18:38:08
あれ!まだフリーズですか、
ここセレブさん、そろそろ、秋の気配です。
目を覚ませて下さい。
投稿: 葉っぱ64 | 2007/10/06 18:05:45
もうすぐ一年ですねw。
どこまで続くか興味津々です。
まあ、僕が生きている間にはなんとか、発表して下さい。
(該当者なしも発表ですよ)
多分、茂木さんの方が長生きすると思いますが…。
こればかりは、わかりまへん。
投稿: 葉っぱ64 | 2008/02/22 23:29:22
一年が過ぎてしまいましたか。
白紙撤回にするかすぐに選定するかどちらかに
してほしいですね。作品を出(up)した以上、
私たちにも責任が生じますのでいい加減に
終わらしていただきたい。
茂木さんは、アップロードのことを「パブリッシュ」と
言い換えていたと記憶していますが、この考え方に
基づけば尚更です。
いい加減、われわれを解放していただきたい。ココログを
止めることができないではありませんか。
投稿: 久路毬(くろかさ) ゆう | 2008/04/09 1:28:08